利益の資本組み入れ

利益の資本組み入れ

1.利益の資本組み入れとは?

会社が資本金を増やすことを増資といいます。

会社が、経営活動に必要な資金を調達する方法には、銀行からの借入や社債の発行などがありますが、確定した利息を支払い、期限までに元金を返済しなければなりません。

これに対して、株式を発行して株主から金銭の払い込みを受ける資金調達では、原則として会社を清算しない限りは資金を返す必要がないため、会社にとっては、長期の安定した資金調達手段となります。

このように、金銭と引き換えに株式を発行する方法が通常の増資(有償増資)ですが、会社が過去に蓄積した利益である利益剰余金を資本金に振り替えることにより、新株を発行せずに増資(無償増資)することもできます。

これを「利益の資本組み入れ」といいます。

現金を用意できなくても資本金を増やすことができるので、増資の必要がある場合には使える制度です。

2.必要な手続き

この「利益の資本組み入れ」は、株主総会の普通決議で行うことができます。

会計処理は、決議した効力発生日に、利益を資本金に振り替えるだけです。

資本金の額が増加しますので、変更登記が必要です。登録免許税は、増加した資本金の額の1000分の7です。その額が3万円未満の時は3万円となります。これにより、会社の登記簿謄本上の資本金の額が変更されます。

その後、税務署、府県税事務所、市区町村に、資本金の額が変更したことについて異動届出書を提出します。

3.経緯

平成18年の会社法施行前まで、「利益の資本組み入れ」は手続きとして認められていました。

しかし、平成18年から平成21年までは、会社法において、資本と利益を明確に区分するという観点から、利益を直接資本金に振り替える「利益の資本組み入れ」は禁止されました。
そのため、会社が積みあげた利益を財源に増資をしたい場合には、いったん株主に配当を行ったうえで、その資金を出資してもらって増資するという手続きをとらなければなりませんでした。
また、配当を行うことから、源泉徴収が必要となり、財源とする利益の全額を資本に組み入れることができないという弊害もありました。

現在は、金銭出資等を行うことなく資本金を増加させたいという一定のニーズがあるとの各種団体の要望により、平成21年に会社計算規則が改正され、再び認められるようになっています。

4.みなし配当課税

平成13年税制改正まで、税法では、利益の資本組み入れを、利益の配当とその配当金の出資の2段階に分けて考えていたため、配当金に対して源泉徴収が必要となり、結局納税のために別途現金が必要でした。

現在は、このような、金銭その他の資産の交付のない場合の「みなし配当課税」は廃止されていますので、利益を資本に組み入れても課税関係は発生しません。

5.会計上の資本金と税法上の資本金

会計上、利益を資本に振り替えても、税法上の資本金の金額は変わりません。法人税の申告調整により、税法上は何もなかったものとみなされます。会計上は1000万円から2000万円に増資しても、税務上の資本金は1000万円のままということになります。

税法上の資本金は、法人税法において、「株主等から出資を受けた金額」として独自の観点から定めているところ、利益の資本組み入れはこれに該当しないということになるものです。税務上の資本金は「資本金等の額」と表現されます。

6.均等割額

「均等割額」は、税務上の資本金をベースに課税されます。利益の資本組み入れにより、会計上の資本金が1000万円から2000万円に増加しても、税法上の資本金は1000万円ですので、均等割額は1000万円をベースに課税されます。利益の資本組み入れによる増資は、「均等割額」には影響を及ぼしません。

(税制改正あり)税制改正により、平成27年4月1日以後に開始する各事業年度においては、2000万円をベースに均等割が課税されます。ご注意ください。
平成22年4月1日以後に、利益準備金又はその他利益剰余金による無償増資を行った場合、平成27年4月1日以後に開始する各事業年度においては、当該増資相当額を資本金等の額に加算します。
なお、当該加算後の資本金等の額が、資本金及び資本準備金の合算額又は出資金の額に満たない場合には、資本金等の額は、資本金及び資本準備金の合算額又は出資金の額とします。

 

7.会計上の資本金が1億円を超える場合

一方で、利益の資本組み入れにより、会計上の資本金の額(資本金の額又は出資金の額)が1億円を超えると、税法上、次のような不利な取り扱いを受けるので注意が必要です。
※一定規模の資本金の額の法人による支配関係がない法人を前提とします。

7-1.外形標準課税

会計上の資本金の額が1億円を超えると、法人事業税について、外形標準課税の対象となります。
外形標準課税とは、外観から客観的に事業規模を判断できる基準を課税ベースとして税額を算定する課税方式のことです。
外形標準課税では、法人の所得への課税(所得割)に加え、資本割(資本金等)、付加価値割(報酬給与額+純支払利子+純支払賃借料+単年度損益)といった事業規模を表す外形基準によっても課税されるため、赤字法人であっても税負担が発生します。

7-2.法人税の軽減税率

年所得金額800万円以下に対する法人税の軽減税率15%の適用が受けれなくなり、一律25.5%となります。

7-3.青色欠損金の繰越控除

青色申告法人では、欠損金(赤字)を9年間繰り越せますが、控除限度額が、繰越控除をする事業年度の控除前所得の金額の100分の80相当額に縮小されます。
すなわち、利益が100出た事業年度において、過年度の赤字が△100あったとしても、控除限度額は△80となるため、20に対しては法人税等の課税対象とされることになります。

7-4.欠損金の繰戻しによる還付請求

前年黒字で支払った法人税について、当期の欠損金(赤字)により繰戻還付できる欠損金の繰戻しによる還付請求を行えなくなります。

7-5.留保金課税

同族会社が配当せずに内部留保している利益について課税する留保金課税が適用されることになり、一定額以上の内部留保に対して本来の法人税とは別に特別課税されます。

7-6.交際費課税

交際費等の損金不算入制度における定額控除制度(現行800万円まで全額損金算入)が受けれなくなります。

7-7.貸倒引当金の法定繰入率

貸倒引当金の法定繰入率の選択ができなくなり、貸倒実績率により計算することとなります。

7-8.少額減価償却資産の特例

取得価額30万円未満の減価償却資産の即時償却(年間300万円まで)が認められなくなります。

7-9.中小企業等投資促進税制

(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)
会計上の資本金の額が1億円を超えると、中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却(30%)の適用を受けれなくなります。
なお、本制度における税額控除(7%)の適用は、資本金の額が3000万円以下の法人が対象となります。

7-10.商業・サービス業・農林水産業活性化税制

(特定中小企業等が経営改善設備を取得した場合の特別償却又は税額の特別控除)
会計上の資本金の額が1億円を超えると、中小企業者等が経営改善設備を取得した場合の特別償却(30%)の適用を受けれなくなります。
なお、本制度における税額控除(7%)の適用は、資本金の額が3000万円以下の法人が対象となります。

7-11.生産性向上設備投資促進税制

中小企業者等に該当する場合は、A類型(先端設備)の対象設備の範囲が広くなる、B類型(生産ラインやオペレーションの改善に資する設備)の認定要件が緩和される、中小企業投資促進税制の上乗せ措置が選択できる、等の優遇措置がありますが、会計上の資本金が1億円を超えるとこれらの優遇措置を受けれなくなります。

7-12.研究開発費税制(中小企業技術基盤強化税制)

研究開発費税制のうち、試験研究費の12%に相当する額を法人税額から控除できる中小企業技術基盤強化税制の適用を受けれなくなります。
※その他の研究開発費税制の適用は受けることができます。

8.会計上の資本金を1000万円以上とする場合

新設法人については、会計上の資本金の額が1000万円未満であれば、設立1期目及び2期目は原則として免税事業者となります。したがって、新設法人については、利益の資本組み入れにより、会計上の資本金を1000万円以上にしてしまうと、消費税の免税措置を受けれなくなります。

9.最後に

中小企業においては、金銭出資等を行うことなく資本金を増加させたいという一定のニーズがあることから、「利益の資本組み入れ」は使い勝手のよい制度です。

ただし、利益の資本組み入れを行う際は、増資後の資本金の金額に気をつけておく必要があります。必要以上に資本金の金額を大きくすると節税の機会を逃すこともあるからです。

基本的には「1億円以下」が目安になりますが、新設法人については、消費税の免税事業者のメリットのある「1000万円未満」という数字もおさえておくとよいでしょう。