平成30年度税制改正大網ー税制改正の基本的考え方を読むー

平成30年度税制改正大網ー税制改正の基本的考え方を読むー

平成29年12月14日に、自民党と公明党による平成30年度の与党税制改正大綱が取りまとめられ、公表されました。

例年の税制改正は、毎年年末にまとめられる「税制改正大綱」をもとに、税制改正法案が作成されます。法案は、翌年の1月から3月までの通常国会にて審議され、3月に可決され、成立した場合には、3月31日に公布、 4月1日から施行となります。

平成30年度税制改正大綱は、以下の構成となっています。

平成 30年度税制改正大綱

( 目 次 )

第一 平成 30 年度税制改正の基本的考え方 – 1

第二 平成 30 年度税制改正の具体的内容 – 17

一 個人所得課税 – 17

二 資産課税 – 45

三 法人課税 – 70

四 消費課税 – 92

五 国際課税 – 108

六 納税環境整備 – 118

七 関税 – 129

第三 検討事項 – 130

冒頭の「税制改正の基本的考え方」では、現政権の政策を反映させた税制改正の趣旨と今後の動向について、改正の要点とともに端的に記載されています。

「税制改正の基本的考え方」原文を以下に掲載していますので、ご一読ください。

個別の改正項目については、おってレポートしていきます。大綱の全文をご覧になりたい方は、平成30年度税制改正大綱 をご覧ください。

第一 平成 30 年度税制改正の基本的考え方

安倍内閣はこの5年間、デフレ脱却と経済再生を最重要課題として取り組んできた。雇用は200 万人近く増加し、正社員の有効求人倍率は調査開始以来初めて1倍を超え、賃金も2%程度の賃上げが4年連続で実現するなど、雇用・所得環境は大きく改善している。

この経済の成長軌道を確かなものとするために、安倍内閣は、最大の課題である少子高齢化の克服に向けて、「生産性革命」と「人づくり革命」を断行することとしている。生産性を大きく押し上げることで、4年連続の賃上げの勢いをさらに力強いものとし、デフレからの脱却を確実なものとしていく必要がある。また、人生100 年時代を見据え、わが国の経済社会システムの大改革に挑戦することにより、誰もが生きがいを感じられる「一億総活躍社会」を作り上げる必要がある。

このため、税制面においては、働き方の多様化を踏まえ、特定の働き方だけでなく、様々な形で働く人をあまねく応援し、「働き方改革」を後押しする観点から、個人所得課税について、これまで検討を重ねてきた見直しの方向性に沿って、給与所得控除・公的年金等控除の制度の見直しを図りつつ、一部を基礎控除に振り替えるなどの対応を行う。

デフレ脱却と経済再生に向け、生産性向上のための設備投資と持続的な賃上げを強力に後押しする観点から、賃上げ・生産性向上のための税制上の措置及び地域の中小企業の設備投資を促進するための税制上の措置を講ずる。また、中小企業の代替わりを促進するため、事業承継税制を10 年間の特例措置として抜本的に拡充する。観光立国実現に向けた観光基盤の拡充・強化を図る観点から、観光促進のための税として国際観光旅客税(仮称)を創設するとともに、地方創生の推進に向けて、地方拠点強化税制を見直す。

地方創生を推進するためには、各地方公共団体が自らの発想で特色を持った地域づくりを進めていくことが重要であることから、その基盤となる地方税源の充実確保を図るとともに、税源の偏在性が小さく税収が安定的な地方税体系の構築を進める。

パリ協定の枠組みの下におけるわが国の温室効果ガス排出削減目標の達成や災害防止を図るための地方財源を安定的に確保する観点から、次期通常国会における森林関連法令の見直しを踏まえ、平成31 年度税制改正において、森林環境税(仮称)及び森林環境譲与税(仮称)を創設する。

持続的な経済成長には日本企業の健全な海外展開促進とその果実の国内への還流という好循環も重要である。公平な競争条件を確保し、課税逃れに効果的に対応する国際税制はそのための重要なインフラである。わが国は「BEPS(注)プロジェクト」において主導的役割を果たしてきたが、引き続き、国際的なルール作りに積極的に参画するとともに、変化する経済実態や諸外国における取組みも踏まえ、国際合意に則った制度の整備を進める。
(注)Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転

近年、経済社会のICT化が急速に進展している。ICTは、生産性の高い経済社会を構築するとともに、国民の利便性や行政の効率性を高めるために重要なツールであり、税務分野においてもその積極的な活用が必要である。こうした観点から、税務手続の電子化等を一層推進し、電子申告・納税等の拡充を進める。

また、わが国の経済社会の変化や国際的な取組みの進展状況等を踏まえつつ、担税力に応じた新たな課税について検討を進めていく。

税制改正に当たっては、足下の経済情勢への適切な対応が重要である一方、中長期的課題にも責任をもって取り組まなければならない。税制は経済社会のあり方に密接に関連するものであり、今後とも、格差の固定化につながらないよう機会の平等や世代間・世代内の公平の実現、簡素な制度の構築といった考え方の下、検討を進める。

「人づくり革命」の断行により、2020 年度の基礎的財政収支の黒字化目標は影響を受けざるを得ないが、引き続き経済再生と財政健全化を両立させることがわが国の最重要課題である。このため、基礎的財政収支の黒字化を目指すという目標を堅持し、同時に債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指すこととし、来年の「経済財政運営と改革の基本方針」において、その裏付けとなる具体的な計画を示す必要がある。このような厳しい財政事情に鑑み、財政物資としてのたばこの基本的性格を踏まえ、たばこ税の税率を引き上げる。

消費税率10%への引上げを平成31 年10 月1日に確実に実施するとともに、あわせて実施される低所得者への配慮のための軽減税率制度について、安定的な恒久財源を確保するため、平成30 年度末までに歳入及び歳出における法制上の措置等を講ずる。

以下、平成30 年度税制改正の主要項目及び今後の税制改正に当たっての基本的考え方を述べる。

1 個人所得課税の見直し

(1)平成30 年度税制改正における対応

個人所得課税については、平成29 年度税制改正大綱において、見直しに向けた基本的方向性をとりまとめた。この基本的方向性に沿って、平成30 年度税制改正においては、以下のとおり個人所得課税の見直しを進める。

① 給与所得控除・公的年金等控除から基礎控除への振替

経済社会の著しい構造変化の中で、働き方が様々な面で多様化している。かつては、「学校卒業後、1つの会社で定年まで勤めあげ、年金生活に入る」といったライフコースが典型的であったが、特定の企業や組織に属さず専門分野の能力等を活かしてフリーランスとして業務単位で仕事を請け負う、子育てをしながら会社員時代に培った技能を活かして在宅で仕事を請け負う、高齢者が長年培った能力や経験を活かし業務単位の仕事の請負や起業支援等の形で活躍するなど、多様な働き方が増えつつある。人生100 年を生きる時代には、さらにこうした傾向が強まることが想定される。

他方、わが国の個人所得課税は、こうした多様な働き方の拡大を想定しているとは言い難い。様々な収入の中でも、給与収入と公的年金等収入のみに給与所得控除や公的年金等控除といった所得計算上の控除が認められ、働き方や収入の稼得方法により所得計算が大きく異なる仕組みとなっている。

様々な形で働く人をあまねく応援し、「働き方改革」を後押しする観点から、特定の収入にのみ適用される給与所得控除や公的年金等控除から、どのような所得にでも適用される基礎控除に、負担調整の比重を移していくことが必要である。こうした基本的考え方の下、負担の変動が急激なものとならないようにするため、まずは、給与所得控除・公的年金等控除を10 万円引き下げるとともに、基礎控除を同額引き上げることとする。

② 給与所得控除の見直し

給与所得控除については、平成26 年度税制改正大綱において「現行の水準は、所得税の課税ベースを大きく浸食しており、実際の給与所得者の勤務関連支出に比しても、また主要国の概算控除額との比較においても過大となっていることから、中長期的には主要国並みの控除水準とすべく、漸次適正化のための見直しが必要である」との基本的方向性が示され、同年度改正において、給与所得控除の上限を245 万円(給与収入1,500 万円超)から220万円(給与収入1,000 万円超)に25 万円引き下げた。

平成30 年度税制改正においても、この方針に沿って、引き続き給与所得控除の上限の引下げを行う。具体的には、給与収入が850 万円を超える場合の給与所得控除額を195 万円(①の見直しによる10 万円引下げ分を含む。)に引き下げる。ただし、子育てや介護に対して配慮する観点から、22 歳以下の扶養親族が同一生計内にいる者や特別障害者控除の対象となる扶養親族等が同一生計内にいる者については、負担増が生じないよう措置を講ずる。

③ 公的年金等控除の見直し

公的年金等控除については、給与所得控除とは異なり収入が増加しても控除額に上限はなく、年金以外の所得がいくら高くても年金のみで暮らす者と同じ額の控除が受けられるなど、高所得の年金所得者にとって手厚い仕組みとなっている。また、諸外国は、基本的に、拠出段階、給付段階のいずれかで課税される仕組みとなっているが、わが国は、拠出段階では全額控除され、給付段階でも公的年金等控除が受けられ、拠出・給付の両段階で十分な課税がなされない仕組みとなっている。

こうした点を踏まえ、世代内・世代間の公平性を確保する観点から、公的年金等控除について、公的年金等収入が1,000 万円を超える場合、控除額に上限(見直し後の上限額:195.5 万円(①の見直しによる10 万円引下げ分を含む。))を設けることとする。また、公的年金等収入以外の所得金額が1,000 万円を超える場合には控除額を10 万円引き下げ、2,000 万円を超える場合には控除額を20 万円引き下げることとする。

④ 基礎控除の見直し

わが国の基礎控除については、所得の多寡によらず一定金額を所得から控除する所得控除方式が採用されているが、高所得者にまで税負担の軽減効果を及ぼす必要性は乏しいのではないか、高所得者ほど税負担の軽減額が大きいことは望ましくないのではないかとの指摘がある。

主要国においては、一定の課税所得までは税率をゼロとする「ゼロ税率方式」や、課税所得に累進税率を適用した後に一定の控除額を差し引く「税額控除方式」、所得控除方式を維持しつつ高所得者について控除額を逓減・消失させる「逓減・消失型の所得控除方式」が採用されており、いずれもわが国の所得控除方式と比べて所得再分配機能が高い。

「ゼロ税率方式」や「税額控除方式」は、所得再分配機能の強化に寄与するものの、現行の所得控除方式から変更した場合、負担の変動が急激なものとなりかねないことから、「逓減・消失型の所得控除方式」を採用する。基礎控除は、人的控除の中で最も基本的な控除であり、より広い所得階層に適用されるべきものであることを踏まえ、所得金額2,400 万円超から逓減し、2,500 万円超で消失する仕組みとする。

⑤ 所得情報を活用している社会保障制度等における対応

今回の個人所得課税の見直しにおいて、給与所得控除や公的年金等控除から基礎控除へ10 万円の振替を行うことにより、税負担は増加しないが、総所得金額等や合計所得金額が増加する場合が生じうる。この変化に伴い、所得税又は個人住民税の総所得金額等や合計所得金額を活用している社会保障制度等の給付や負担の水準に関して意図せざる影響や不利益が生じないよう、当該制度等の所管府省において、適切な措置を講じなければならない。

(2)今後の見直しに向けた基本的方向性

今回の個人所得課税の見直しにおいては、働き方の多様化への対応とともに、所得再分配機能の回復の観点から、各種控除の見直しを行ったところである。

今後も、所得再分配機能の回復や税負担のあり方の観点から、引き続き見直しを継続していく。

経済社会の著しい構造変化の中で、近年、結婚や出産をする経済的余裕がない若者が増加しており、こうした若い世代や子育て世帯に光を当てていくことが重要である。そのため、税制のみならず、社会保障制度、労働政策等の面を含め、総合的な取組みを進める必要がある。

給与所得控除や公的年金等控除といった所得計算上の控除については、働き方の多様化の進展状況等も踏まえ、基礎控除への更なる振替を検討するとともに、今回の見直しの考え方やこれまでの税制改正大綱に示された方針を踏まえ、そのあり方について引き続き丁寧に検討する。また、経済社会のICT化等の動向や諸外国の制度も踏まえ、適正な記帳の確保に向けた方策を講じつつ、事業所得等の適正な申告、所得把握に向けた取組みを進める。

人的控除については、平成29 年度税制改正及び今回の改正により、基礎控除、配偶者控除及び配偶者特別控除について、逓減・消失型の所得控除方式が採用されることとなる。今後の制度のあり方については、給与所得控除等からの振替による影響を見極めるとともに、所得再分配機能をどの程度強化すべきかという点も踏まえながら、引き続き検討する。

老後の生活など各種のリスクに備える自助努力を支援するための企業年金、個人年金、貯蓄・投資、保険等に関連する諸制度のあり方について、社会保障制度を補完する観点や働き方の違い等によって有利・不利が生じないようにするなど公平な制度を構築する観点から幅広い検討を行う。

個人住民税については、地域の住民サービスを支える基幹税としての役割の重要性に鑑み、充実強化を図ることを基本として、制度のあり方を検討していく。その際、個人住民税は、地域社会の費用を住民がその能力に応じ広く負担を分任するとの性格を有すること、応益課税としての性格を明確化する観点から比例税率により課税されていることなど、その性格や仕組み等に留意する必要がある。

個人所得課税の見直しについては、個人の負担に直結するものであることから、累次の改正の影響も見極めつつ、国民の理解を得ながら、引き続き丁寧に議論を進めていくこととする。

2 デフレ脱却・経済再生

(1)「生産性革命」の実現に向けた税制措置

① 賃上げ・生産性向上のための税制

わが国の企業収益が過去最高を更新し続ける中、企業が自己の収益を生産性向上のための設備投資や人材投資に振り向け、持続的な賃上げが可能となる環境を作り出すことが、成長と分配の好循環を生み出すためには重要である。この生産性に関する喫緊の課題に対応するため、賃上げ・生産性向上のための税制として、生産性革命集中投資期間中、以下の措置を講ずる。

イ 十分な賃上げや国内設備投資を行った企業について、賃上げ金額の一定割合の税額控除ができる措置を講ずる(人材投資を増加した企業に対しては、税額控除割合を上乗せする。)。
(注)なお、中小企業については、別途、賃上げの促進に係る措置を講ずる。

ロ 企業内外のデータを連携・高度利活用すること等により生産性の向上を図る等、「生産性向上の実現のための臨時措置法(仮称)」の要件を満たすものとして認定された計画に基づく投資(情報連携投資)について、特別償却又は税額控除ができる措置を講ずる。

ハ 所得が増加しているにもかかわらず、賃上げや設備投資をほとんど行っていない大企業について、研究開発税制等、生産性の向上に関連する税額控除の適用を行わないこととする。

② 「生産性革命」の実現に向けた中小企業の設備投資の支援

生産性革命集中投資期間中における臨時、異例の措置として、地域の中小企業による設備投資の促進に向けて、「生産性向上の実現のための臨時措置法(仮称)」の規定により市町村が主体的に作成した計画に基づき行われた中小企業の一定の設備投資について、固定資産税を2分の1からゼロまで軽減することを可能とする3年間の時限的な特例措置を創設する。本特例措置については、生産性革命集中投資期間限りの措置とする。中小企業等経営強化法に規定する認定経営力向上計画に基づき中小事業者等が取得する一定の機械・装置等に係る固定資産税の課税標準の特例措置については、平成30年度末の適用期限をもって廃止する。

なお、固定資産税が市町村財政を支える安定した基幹税であることに鑑み、償却資産に対する固定資産税の制度は堅持する。

(2)事業承継税制の拡充

中小企業経営者の年齢分布のピークが60 歳台半ばとなり、高齢化が急速に進展する中で、日本経済の基盤である中小企業の円滑な世代交代を通じた生産性向上は、待ったなしの課題となっている。こうした中で、事業承継税制について、10 年間の特例措置として、各種要件の緩和を含む抜本的な拡充を行う。

具体的には、施行日後5年以内に承継計画を作成して贈与・相続による事業承継を行う場合、①猶予対象の株式の制限(発行済議決権株式総数の3分の2)を撤廃し、納税猶予割合80%を100%に引き上げることにより、贈与・相続時の納税負担が生じない制度とし、②雇用確保要件を弾力化するとともに、③2名又は3名の後継者に対する贈与・相続に対象を拡大し、④経営環境の変化に対応した減免制度を創設して将来の税負担に対する不安に対応する等の特例措置を講ずる。こうした特例措置を講じるに当たっては、租税回避が助長されないよう、制度面・運用面で必要な対応を行う。

中小企業の事業承継の問題に対応するには、こうした税制措置だけでなく、予算措置も含めた総合的な支援を行うことが必要である。この中で、中小企業の後継者難については、後継者のマッチングなどを支援し、あわせて、関係省庁において経営者の個人保証の適正化に向けた検討を行っていかなければならない。

(3)競争力の強化

① 事業再編の環境整備

企業外の経営資源・技術を取り込むための事業の再編・統合は、新規技術等への投資と共に、わが国企業の生産性を高めていくための有効な手段である。特に著しい生産性向上等を実現するためには、大規模かつ迅速な事業再編によって、戦略分野への選択と集中、プラットフォームの提供、事業ポートフォリオ転換等を進めていくことが重要であり、これらの特定の事業再編を強力に推し進めていく観点から、自社株式を対価とした公開買付けなど、任意の株式の交換について、交換に応じた株主に対する譲渡損益課税の繰延措置を講ずる。

また、多段階型再編等多様な手法による事業再編の円滑な実施を可能とするため、組織再編税制の適格要件を見直す。

② 国立大学法人等に対する評価性資産の寄附の促進

わが国のGDP600 兆円経済の実現に向けて、科学技術イノベーションを推進する観点から、知と人材の拠点である大学や研究開発法人を中核として、産学官が連携して、社会全体で優れた研究開発やベンチャーが自発的・連続的に創出されるイノベーション・エコシステムを構築する必要がある。このため、そのエンジンとなる国立大学法人等の経営基盤を強化することが不可欠であり、国立大学法人等は積極的に外部資金を得るように努めるなど「運営」から「経営」への脱却が求められる。国立大学法人等が外部資金獲得に向けた取組みを一層進め、寄附された資産を柔軟に活用できるようにする観点から、国立大学法人等に対して評価性資産を寄附した場合の譲渡所得等の非課税措置について、要件を大幅に緩和する。

(4)観光立国・地方創生の実現

① 観光財源の確保

観光立国実現に向けた観光基盤の拡充・強化を図る観点から、観光促進のための税として、わが国からの出国に広く薄く負担を求める国際観光旅客税(仮称)を創設する。財源の使途に関しては、受益と負担の関係から日本人出国者を含む負担者の納得が得られ、先進的で費用対効果が高く、地方創生をはじめとするわが国が直面する重要な政策課題に合致するものとする。具体的には、ストレスフリーで快適に旅行できる環境の整備、わが国の多様な魅力に関する情報の入手の容易化及び地域固有の文化、自然等を活用した観光資源の整備等による地域での体験・滞在の満足度の向上に資する施策に充てるものとする。

② 外国人旅行者向け消費税免税制度の利便性向上

外国人旅行者の利便性の向上等の観点から、免税販売手続の電子化を推進し、ペーパーレス化を進めるとともに、免税販売の対象となる下限額の判定に際し、一定の条件下で一般物品と消耗品の合算を認める措置を講ずる。

③ 地方拠点強化税制の見直し

東京一極集中の是正を図るという地方拠点強化税制の趣旨をより明確に制度に反映するとともに、首都圏から地方に移転する企業が本税制を積極的に活用するよう促すため、主として移転型事業について、支援対象地域の追加と税額控除額の見直し、雇用増加要件について、実情等に応じた適正化など、本税制の適用範囲及び要件について所要の見直しを行う。

④ 相続登記に係る登録免許税の見直し

所有者不明土地問題を受けて、数次にわたる相続を経ても登記が放置されている土地や、相続登記を促進すべき地域における少額土地(一筆10 万円以下)について、登記に係る登録免許税を減免する。これと併せ、法務省において、早急に全国の地域別・地区別の登記の現況を正確に把握する必要がある。

(5)その他考慮すべき課題

① 租税特別措置については、特定の政策目的を実現するために有効な政策手法となりうる一方で、税負担の歪みを生じさせる面があることから、真に必要なものに限定していくことが重要である。このため、毎年度、期限が到来するものを中心に、各措置の利用状況等を踏まえつつ、必要性や政策効果をよく見極めた上で、廃止を含めてゼロベースで見直しを行う。また、租税特別措置の創設・拡充を行う場合は、財源を確保することやいたずらに全体の項目数を増加させないことに配意する。

② 住宅市場に係る対策については、住宅投資の波及効果に鑑み、これまでの措置の実施状況や今後の住宅市場の動向等を踏まえ、必要な対応を検討する。

③ 今回の個人所得課税の見直しにおいては、働き方の多様化への対応とともに、所得再分配機能の回復の観点から、各種控除の見直しを行ったところであるが、今後の見直しにおいても、所得再分配機能の回復の必要性が高まっていることを踏まえる必要がある。

④ 金融所得に対する課税のあり方については、家計の安定的な資産形成を支援するとともに税負担の垂直的な公平性等を確保する観点から、関連する各種制度のあり方を含め、諸外国の制度や市場への影響も踏まえつつ、総合的に検討する。

3 地域社会を支える地方税財政基盤の構築

(1)地方消費税の清算基準の抜本的な見直し

地方消費税は、その税負担を最終消費者に求めるものであることから、最終消費地と税収の帰属地を一致させる必要があり、このための仕組みとして、清算制度が設けられている。この清算基準については、平成9年度に導入されて以来20 年が経過したことから、サービス産業化の進展など社会経済情勢や統計制度の変化等を踏まえ、社会保障財源として充実が図られている地方消費税の税収を、より適切に最終消費地に帰属させるため、清算基準の抜本的な見直しを行う。

具体的には、消費の実態を踏まえ、清算基準における統計データの利用方法を見直し、統計データとしてそのまま利用することが適当でないものについて除外することとし、その結果として統計データがカバーする比率を現行の75%から50%に改める。また、統計データのカバー外の消費代替指標については、地方消費税創設当初と比べてサービス統計の調査対象が大きく拡大したこと等を踏まえ、従業者数は用いないこととし、人口の比率を50%に高める。

(2)土地に係る固定資産税の負担調整措置

固定資産税は、市町村財政を支える基幹税であり、今後ともその税収の安定的な確保が不可欠である。

土地に係る固定資産税については、平成9年度から負担水準の均衡化を進めてきた結果、平成29 年度の商業地等における負担水準は、据置特例の対象となる60%から70%までの範囲(据置ゾーン)内にほぼ収斂するに至っている。

現下の商業地の地価の状況を見ると、三大都市圏では4年連続の上昇、地方圏では下落幅は縮小しているものの下落傾向が続いている。

そのため、平成30 年度評価替えにおいては、大都市を中心に、地価上昇の結果、負担水準が下落し据置ゾーンを下回る土地が生ずる一方で、地方では、地価下落の結果、負担水準が70%を超えて上昇する土地が数多く生ずると見込まれるところであり、まずは、そうした土地の負担水準を据置ゾーン内に再び収斂させることに優先的に取り組むべきである。

このような状況及び現下の最優先の政策課題はデフレからの脱却を確実なものとすることであることを踏まえ、平成30 年度から平成32 年度までの間、土地に係る固定資産税の負担調整の仕組みと地方公共団体の条例による減額制度を継続する。

一方、据置特例が存在することで、評価額と税額の高低が逆転する現象が生じるなど、据置ゾーン内における負担水準の不均衡が解消されないという課題があり、負担の公平性の観点からは更なる均衡化に向けた取組みが求められる。これらを踏まえ、税負担の公平性や市町村の基幹税である固定資産税の充実確保の観点から、固定資産税の負担調整措置のあり方について引き続き検討を行う。

(3)都市・地方の持続可能な発展のための地方税体系の構築

少子高齢化が加速する中、地域の実情に応じたきめ細かな行政サービスを地方公共団体が安定的に提供していくための基盤として、偏在性が小さく税収が安定的な地方税体系を構築することはますます重要性を増している。こうした観点から、消費税率引上げに併せ、法人住民税法人税割の地方交付税原資化を段階的に進めるなど、地方税源の偏在是正に取り組んできたところである。

近年、経済再生への取組みにより地方税収が全体として増加する中で、地域間の財政力格差は再び拡大する傾向にある。地方交付税の不交付団体においては、財源超過額が拡大し、その基金残高も大きく増加している。一方、交付団体においては、臨時財政対策債の残高が累増するなど、厳しい財政運営が続いている状況にある。

地方創生を推進し、一億総活躍社会を実現するためには、税源の豊かな地方公共団体のみが発展するのではなく、都市も地方も支え合い、連携を強めることが求められる。また、各地方においていきいきとした生活が営まれることは、都市が将来にわたり持続可能な形で発展していくためにも不可欠である。このためには、偏在性の小さい地方税体系の構築に向けて、新たに抜本的な取組みが必要である。

こうした観点から、特に偏在度の高い地方法人課税における税源の偏在を是正する新たな措置について、消費税率10%段階において地方法人特別税・譲与税が廃止され法人事業税に復元されること等も踏まえて検討し、平成31 年度税制改正において結論を得る。

4 森林吸収源対策に係る地方財源の確保

森林を整備することは、地球温暖化防止のみならず、国土の保全や水源の涵養、地方創生や快適な生活環境の創出などにつながり、その効果は広く国民一人一人が恩恵を受けるものである。しかしながら、森林整備を進めるに当たっては、所有者の経営意欲の低下や所有者不明の森林の増加、境界未確定の森林の存在や担い手の不足等が大きな課題となっている。パリ協定の枠組みの下でわが国の温室効果ガス排出削減目標を達成し、大規模な土砂崩れや洪水・浸水といった都市部の住民にも被害が及び得る災害から国民を守るためには、こうした課題に的確に対応し、森林資源の適切な管理を推進することが必要である。

このため、自然的条件が悪く、採算ベースに乗らない森林について、市町村自らが管理を行う新たな制度を創設することとされており、森林関連法令の見直しを行い、平成31 年4月から施行することが予定されている。その見直しを踏まえ、平成31 年度税制改正において、市町村が実施する森林整備等に必要な財源に充てるため、以下を内容とする森林環境税(仮称)及び森林環境譲与税(仮称)を創設する。

森林環境税(仮称)は国税とし、都市・地方を通じて、国民一人一人が等しく負担を分かち合って、国民皆で、温室効果ガス吸収源等としての重要な役割を担う森林を支える仕組みとして、個人住民税均等割の枠組みを活用し、市町村が個人住民税均等割と併せて賦課徴収を行う。

森林環境税(仮称)は、地方の固有財源として、その全額を、国の一般会計を経ずに、交付税及び譲与税配付金特別会計に払い込んだ上で、市町村及び都道府県に対して、森林環境譲与税(仮称)として譲与する。森林環境譲与税(仮称)については、法令上使途を定め、市町村が行う間伐や人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発等の森林整備及びその促進に関する費用並びに都道府県が行う市町村による森林整備に対する支援等に関する費用に充てなければならないものとする。

森林環境税(仮称)については、消費税率10%への引上げが平成31 年10 月に予定されていることや、東日本大震災を教訓として各地方公共団体が行う防災施策に係る財源確保のための個人住民税均等割の税率の引上げが平成35 年度まで行われていること等を考慮し、平成36 年度から課税する。税率は、新たな森林管理制度の施行後において追加的に必要となる需要量や国民の負担感等を勘案し、年額1,000 円とする。

一方で、森林現場における諸課題にはできる限り早期に対応する必要があり、新たな森林管理制度の施行とあわせ、森林環境譲与税(仮称)の譲与は、平成31 年度から行う。

平成35 年度までの間における譲与財源は、後年度における森林環境税(仮称)の税収を先行して充てるという考え方の下、暫定的に交付税及び譲与税配付金特別会計における借入れにより対応する。市町村の体制整備の進捗に伴い、徐々に増加するように譲与額を設定しつつ、借入金は、後年度の森林環境税(仮称)の税収の一部をもって確実に償還する。

5 経済活動の国際化への対応

(1)国際課税に関する制度の見直し

国際課税については、引き続き、日本企業の健全な海外展開を支えることにより海外の成長を国内に取り込むとともに、国際的な脱税や租税回避に対してより効果的に対応していく。このため、平成29 年度税制改正大綱の「今後の国際課税のあり方についての基本的考え方」で掲げた、①「BEPSプロジェクト」の合意事項の着実な実施を通じた国際協調の推進、②「経済活動や価値創造の場と税が支払われるべき場所を一致させる」との「BEPSプロジェクト」の基本的考え方を踏まえた、健全な海外展開を歪める誘引の除去、③税に関する透明性の向上に向けた国際的な協調、という基本方針の下で臨む。また、企業部門の予見可能性の向上にも配慮する。

平成30 年度税制改正においては、「BEPSプロジェクト」の合意事項が盛り込まれたBEPS防止措置実施条約やOECDモデル租税条約を踏まえ、国際合意に則り必要な制度改正を行う。具体的には、国際課税における基本的な概念である「恒久的施設」の定義について、租税条約と国内法の適用関係を明確化し、恒久的施設認定の人為的回避に対応するなどの見直しを行う。

「BEPSプロジェクト」の実施枠組みへの参加は100 か国を超え、非居住者保有の金融口座情報の自動的交換が一部始まるなど透明性の向上に向けた取組みも進んでいる。今後も国際協調において主導的な役割を果たすため、わが国も引き続き国際合意に則った制度の整備を進める必要がある。特に、平成29 年度税制改正大綱において中期的に取り組むべき事項として掲げた、移転価格税制、過大支払利子税制及び義務的開示制度については、「BEPSプロジェクト」における勧告や諸外国の制度・運用実態等を踏まえて検討を進める。

(2)外国人の出国後の相続税納税義務の見直し

高度外国人材等の受入れと長期間の滞在を更に促進する観点から、日本に長期間住所を有していた外国人が出国後に行った相続・贈与に対して国外財産も含めて相続税等を課税する現行制度について、租税回避抑制のための措置は講じつつ見直しを行う。具体的には、一時的に国外に住所を移した後に贈与を行う場合を除き、外国人が出国後に行った相続・贈与については原則として国外財産を相続税等の課税対象とはしないこととする。

6 円滑・適正な納税のための環境整備

(1)税務手続の電子化等の推進

経済社会のICT化や働き方の多様化が進展する中、税務手続においても、ICTの活用を推進し、全ての納税者が簡便・正確に申告等を行うことができる利便性の高い納税環境を整備するとともに、データの円滑な利用を進めることにより、社会全体のコスト削減及び企業の生産性向上を図ることが重要である。

このため、法人税等に係る申告データを円滑に電子提出できるよう環境整備を進めるとともに、大法人については法人税等の電子申告を義務化する。法定調書や所得税の年末調整手続についても、一層の電子化に向けた措置を講ずる。また、地方税の電子納税について、安全かつ安定的な運営を担保するために必要な措置を講じつつ、全地方公共団体が共同で収納を行う仕組みを整備する。税務手続の電子化等の推進については、今後も、適正課税の観点も踏まえつつ、経済社会のICT化等の進展に遅れることなく対応を進めていく。

給与所得に係る個人住民税の特別徴収税額通知(納税義務者用)については、電子情報処理組織(eLTAX)により特別徴収義務者を経由し、送付する仕組みを、地方公共団体間の取扱いに差異が生じないよう配慮しつつ検討する。

(2)適正な納税のための環境整備

適正・公平な課税を実現し、税制に対する国民の信頼を確保する観点から、以下の取組みを進める。

金の密輸事件が多発している状況等を踏まえ、関税法上の無許可輸出入等に係る罰則や輸入に係る消費税等のほ脱罪の罰則を強化する。

一般社団法人・一般財団法人に財産を移転することによる課税逃れや、小規模宅地等の特例の本来の趣旨を逸脱した悪用を防止する観点から、贈与税・相続税の課税の適正化を図る。

また、経済活動の国際化・ICT化により調査・徴収事務の複雑・困難化が進む中、税制を円滑かつ公平に執行するため、必要な定員の確保等の税務執行体制の一層の充実を図る。

7 その他

(1)たばこ税の見直し

高齢化の進展による社会保障関係費の増加等もあり、引き続き国・地方で厳しい財政事情にあることを踏まえ、財政物資としてのたばこの基本的性格に鑑み、たばこ税の負担水準を見直す。その際、諸外国における税負担水準を考慮する。税率の引上げに当たっては、消費者や葉たばこ農家・たばこ小売店等への影響、市場・産業への中長期的な影響、国民の健康増進の観点などを総合的に勘案し、消費者及びたばこ関係事業者の予見可能性を高めるため、3回に分けて段階的に実施する。

また、近年急速に市場が拡大している加熱式たばこについて、加熱式たばこと紙巻たばことの間や加熱式たばこ間に大きな税率格差が存在することも踏まえ、その製品特性を踏まえた課税方式への見直しを行う。

(2)郵政事業のユニバーサルサービスの安定的確保

平成29 年度税制改正大綱において「経営基盤の強化のために必要な措置の実現に向けた検討とともに、引き続き所要の検討を行う」こととしていた日本郵便株式会社等に係る税制上の措置については、郵政事業のユニバーサルサービスを確保するための負担金制度を創設する方向であることを踏まえ、平成30 年に同制度が法制化されることを前提に税制改正の検討は行わないこととする。

(参考)自民党ホームページ : 平成30年度税制改正大綱