永遠の旅行者(Perpetual Traveler)

永遠の旅行者(Perpetual Traveler)

(1)永遠の旅行者(Perpetual Traveler)(橘玲著)
橘玲氏の書き下ろし小説「永遠の旅行者」では、PT(Perpetual Traveler、永遠の旅行者)である元弁護士のもとに「20億円の資産を息子にではなく孫娘に相続させたい。1円の相続税も払わずに」という依頼が舞い込みます。

(2)PTとは?
PT(Perpetual Traveler、永遠の旅行者)とは、どの国の居住者ともならず、合法的にいっさいの納税義務から解放された人々、または、国家にとらわれず、自由を求めて世界を旅する独立した個人のライフスタイルをさします。
PTの身分を手に入れるためには、日本の税法において「非居住者」にならなければなりません。「非居住者」は、納税義務の一部もしくはすべてを合法的に免除されるという特権的な地位を享受できるため、日本の税法では非居住者の認定に厳しい制限を与えています。

(3)「非居住者」とは?
所得税法は、居住者を「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人」と定義し、非居住者を「居住者以外の個人」と規定しています。
この規定から、非居住者の認定にあたっては、「住所」の定義が争点となります。住所がたんに住民票の所在地を意味するのであれば、住民票を国外に移し、海外に滞在するだけで、誰でも簡単に非居住者になれます。
こうした事態を避けるために、国税庁は通達によって、「『住所』とは、各人の生活の拠点をいい、『生活の本拠』であるかどうかは、客観的事実によって判定する」との基準を定めています。
「生活の本拠」については、判例が、「住所、職業、国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有するか否か、資産の所在等に基づき判定するのが相当」としています。

(4)「生活の本拠」
最近でも、消費者金融大手・武富士前会長の長男が、オランダ法人株の贈与を巡り東京国税局より個人としては過去最高の約1600億円の申告漏れを指摘されました。これは、香港に移住し現地法人の代表を務める長男側が、自分は「税法上の非居住者」であり贈与については非課税と主張するのに対し、国税側は頻繁に日本と往き来をしており生活の拠点は日本にあると判断したものです。同氏は2005年9月10日、約1300億円の追徴課税(更正処分)の取り消しを国税当局に求める訴えを東京地裁に起こしています。個人として過去最高額の申告漏れを指摘した課税処分の是非は、法廷で争われることになりました。

(5)税制改正
武富士前会長の長男が使用したスキームは、かつてから多くの資産家が利用するオーソドックスな節税方法でした。子どもの住所を海外に転出させ、親の財産も現地法人つまりは外国法人の資産にすることにより、世界一高いといわれる日本の税負担を回避しながら贈与できるというものです。
これらを是正するために、国は2000年に税制を改正しています。現在は親子どちらかが贈与前5年以内に国内に居住していれば課税対象となります。

(6)さて、橘玲氏の書き下ろし小説「永遠の旅行者」で、主人公であるPTの元弁護士は、「20億円の資産を息子にではなく孫娘に1円の相続税も払わずに相続させたい。」という依頼をどのような手を使って解決するのでしょうか?
詳細は次号で解説します。