京セラアメーバ経営をささえる「経営のための会計学」-創業者稲盛和夫氏の会計学-

京セラアメーバ経営をささえる「経営のための会計学」-創業者稲盛和夫氏の会計学-

(1)稲盛氏が率いる京セラの「アメーバ経営」は、京セラ発展の原動力となった経営管理手法でありますが、今回はこれをささえている「経営のための会計学」の7つの基本原則について簡単に説明したいと思います。     

(2)7つの基本原則その① キャッシュベース経営の原則
収益と費用の差額で「利益」を算出する損益計算中心の企業経営では、「キャッシュ」すなわち資金の流れを把握することができず、利益はでているのに資金繰りは苦しい、といった状況がよくおこります。稲盛氏は、「儲かったお金はどこにあるのか」を常に問いかけ、お金のことを心配していては仕事ができないとの考え方から、借入を前提とした経営を極力避け、資金的に余裕のある「土俵の真ん中で相撲をとる」経営を第一の原則としています。

(3)7つの基本原則その② 一対一対応の原則
経営活動においては、必ずモノとお金が動きます。そのときにモノまたはお金と伝票が必ず一対一の対応を保たなければならないことを「一対一対応の原則」といいます。この原則は、徹底しなければ意外と守られていないことが多いようです。「一対一対応の原則」は、徹することにより、社内のモラル向上を高めると同時にその積み上げである数字が信頼できるものになります。昨今の企業の不祥事の数々を思い起こせば、単純なようですが、重要な原則であることをお分かりいただけると思います。

(4)7つの基本原則その③ 筋肉質経営の原則
これは稲盛氏の会計学のバックボーンとなっている原則ですが、企業を人間の体に例えるならば、体の隅々にまで血が通い、常に活性化されている引き締まった肉体を持たなければならない、つまり、経営者はぜい肉のまったくない筋肉質の経営をめざすべきことを要求する原則です。具体的には、中古品で我慢する、経営者が自分や企業を実力以上に良く見せようとする欲求を抑えた健全会計に徹する、固定費の増加を警戒する、投機は行わない、高くても必要なものを必要なときにだけ買うことを実践することにより結果的にコストダウンを実現すること、などがあげられます。蛇足ではありますが、私はこの原則の言い回しをとても気に入っています。

(5)7つの基本原則その④ 完璧主義の原則
「完璧主義の原則」とは、曖昧さや妥協を許すことなく、あらゆる仕事を細部にわたって完璧に仕上げることをめざすもので、経営にいてとるべき基本的な態度といいます。経営者は常にパーフェクトな決断を求められます。基礎となる数字に少しでも誤りがあれば、結局経営判断を 誤ってしまいます。したがって完璧主義をまっとうしようと常に心がけ、努力する必要があるのです。

(6)7つの基本原則その⑤ ダブルチェックの原則
「ダブルチェック」とは、経理のみならず、あらゆる分野で人と組織の健全性を守る「保護メカニズム」をさします。人の心は大変大きな力を持っていますが、ふとしたはずみで過ちを犯してしまうという弱い面ももっています。「ダブルチェックの原則」は、社員が罪をつくることを未然に防ぎながら、緊張感のある職場の雰囲気を作り出すためにどんな事情があろうとも、徹底すべき原則です。

(7)7つの基本原則その⑥ 採算向上の原則
企業の会計にとって自社の採算向上を支えることはもっとも重大な使命といえます。京セラでは、「会計学」と「アメーバ経営」と呼ばれている小集団独立採算制度による経営管理システムが両輪として、経営管理の根底をなしています。
稲盛氏は、京セラが急速に成長していくにつれて大きくなっていく組織を事業展開に合わせて小さく分割し、各組織が一つの経営主体であるかのように自らの意思により事業展開ができるようにしました。これがアメーバ経営と呼ばれているものです。アメーバ経営では、各アメーバはそれぞれがプロフィットセンターとして運営され、あたかも一つの中小企業であるかのように活動します。このアメーバ経営のなかで会計学に密接に関連する部分、すなわち採算を向上させるために非常に重要な役割を果たしている管理会計システムが「時間当り採算制度」です。これについては次号で概説します。

(8)7つの基本原則その⑦ ガラス張り経営の原則
「ガラス張りの経営の原則」とは、「透明な経営」を支える経理のあり方を述べたものです。すなわち、経理部門は、会社のあらゆる会計処理や決算報告を正確に行い、かつ保守的な会計処理がとられるよう最大限に努力する一方、経営者自身も、自らを厳しく律し、誰が見てもフェアな行動をとっていかなくてはなりません。上場している企業については、たとえ「良くない事態」がおきたとしても、勇気をもってただちにディスクローズし、打開策を確実に実行していることを投資家に伝えることにより、逆に会社の信頼は高まっていくのです。

(9)原則は、実際の経営の中で生かされて、初めて本当の価値が出てくるものといえるでしょう。
まさに「言うは易し、行うは難し」です。