消費税の免税事業者からの仕入税額控除の段階的廃止|平成28年度税制改正解説

消費税の免税事業者からの仕入税額控除の段階的廃止|平成28年度税制改正解説

消費税の免税事業者からの仕入税額控除の段階的廃止|平成28年度税制改正解説

平成28年度税制改正において、平成29年4月より、消費税の軽減税率制度が導入されることが確定いたしました。

消費税の軽減税率制度の導入|平成28年度税制改正解説

ただ、軽減税率の対象品目が、食料品に限られることから、食料品と関係のない業種の事業者については、当事者としての関心があまりない方がいるかもしれません。

しかし、消費税の軽減税率の導入にあたり、消費税が複数税率になることを受けて、同時に導入されることが決まった適格請求書等保存方式(インボイス方式)は、その他の業種や免税事業者にとって、実質増税となる大きな改正となっています。

適格請求書等保存方式(インボイス方式)の導入にあたって、消費税の免税事業者からの仕入税額控除が、段階的に廃止されることが決まったからです。

会計検査院における研究(消費税における益税の推計)によれば、全事業者に免税事業者の占める割合は4割にのぼり、消費税率が10%に引き上げられた場合には、その影響額は8000億円に達する可能性があるともいわれています(免税点制度による益税発生額=免税事業者からの仕入税額控除額とした場合)。軽減税率導入による税収減の穴埋めに必要な財源は1兆円にのぼるといわれ、うち4000億円は、消費増税に伴って低所得者対策に使うはずだった財源で穴埋めされる予定です。これと合わせ、免税事業者からの仕入税額控除の廃止により、結局1兆円以上の財源が確保されるのであれば、そこまでして軽減税率を導入する必要があるのかどうか疑問に思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

適格請求書等保存方式(インボイス方式)と免税事業者からの仕入税額控除

消費税の納付税額は、課税期間中の課税売上げ等に係る消費税額から課税仕入れ等に係る消費税額(仕入控除税額)を控除して計算します。

現行法では、仕入税額控除の適用を受けるためには、課税仕入れ等の事実を記載した帳簿及び請求書等の両方を保存する必要がありますが、免税事業者から仕入れた場合や事業者ではない消費者から仕入れた場合も、仕入税額控除の対象となります。

しかし、適格請求書等保存方式(インボイス方式)では、「登録」を受けた「課税事業者」が交付する「適格請求書(インボイス)」及び帳簿の保存が、仕入税額控除の要件とされます。

(適格請求書の記載事項)

  1. 発行者の氏名又は名称及び登録番号
  2. 取引年月日
  3. 取引の内容(軽減税率対象である旨の記載を含む)
  4. 税率ごとに合計した対価の額及び適用税率、消費税額等
  5. 交付を受ける事業者の氏名又は名称

すなわち、適格請求書等保存方式(インボイス方式)では、「適格請求書発行事業者登録制度」が創設され、「適格請求書発行事業者」は、免税事業者「以外」の事業者であって、納税地を所轄する税務署長に申請書を提出し、適格請求書を交付することのできる事業者として「登録」を受けた事業者とされたのです。

したがって、免税事業者は、「適格請求書発行事業者」の登録を受けることができず、適格請求書を発行できないことになるので、免税事業者から仕入れた場合には、仕入税額控除ができなくなってしまいます。

現行法では、免税事業者から仕入れた場合でも、その支払った対価の額は消費税込みの金額とされ、仕入税額控除が可能ですが、そうではなくなるということです。

免税事業者にとっては、「適格請求書発行事業者」の登録を受けることができず、適格請求書を発行できなければ、相手方に免税事業者であることが明らかになります。

免税事業者からの仕入れを行う事業者にとっては、自由競争の観点から、同じ対価で、仕入税額控除ができる場合とできない場合があるのであれば、仕入税額控除をできる事業者を選択する可能性が高くなります。

平成30年9月30日が期限の消費税転嫁法では、免税事業者である取引先に対し、免税事業者であることを理由とする「買いたたき」を禁止していますが、適格請求書等保存方式(インボイス方式)の導入にあたり、政府が同じようなガイドライン等を作成するのかどうか、注目されるところです。

消費税転嫁対策特別措置法(期限:平成30年9月30日まで)

(政府公表のガイドラインで示されている禁止される行為)抜粋

【買いたたき】

免税事業者である取引先に対し、免税事業者であることを理由に、消費税率引上げ前の対価に消費税率引上げ分を上乗せした額よりも低い対価を定める場合(注)

(注)免税事業者であっても、他の事業者から仕入れる原材料や諸経費の支払において、消費税額分を負担している点に留意する必要がある。

消費税の免税事業者からの仕入税額控除の段階的廃止のスケジュール

この免税事業者からの仕入税額控除の廃止は、軽減税率導入の平成29年4月より、10年間かけて段階的に廃止されるスケジュールとなっています。

平成29年3月まで - 100%控除

現行法が適用されますので、免税事業者からの仕入税額控除は全額可能です。

平成29年4月から平成33年3月まで(4年間)- 100%控除

この期間は、適格請求書等保存方式(インボイス方式)の導入期間として設定されています。現行の請求書等保存方式を維持しつつ、区分経理に対応するため、売り手が発行する請求書の記載事項に、買い手が、①軽減税率の対象品目である旨と、②税率ごとに合計した対価の額を追記した区分記載請求書による仕入税額控除が可能とされ、免税事業者からの仕入れも全額が仕入税額控除の対象となります。

平成33年4月から平成36年3月まで(3年間)- 80%控除

仕入税額控除の要件が、「適格請求書」の保存となるため、原則として、免税事業者からの仕入税額はできなくなりますが、経過措置として、免税事業者からの仕入れについて、平成33年4月から3年間は、80%の仕入税額控除が可能とされます。

平成36年4月から平成39年3月まで(3年間)- 50%控除

その後、平成36年4月から3年間は、免税事業者からの仕入れについて、50%の仕入税額控除が可能とされます。

平成39年4月以降 - 廃止

免税事業者からの仕入税額控除はできなくなります。

(平成28年度税制改正大綱抜粋)

四 適格請求書等保存方式

適格請求書発行事業者登録制度を創設し、原則として「適格請求書発行事業者」(仮称)から交付を受けた「適格請求書」(仮称)又は「適格簡易請求書」(仮称) の保存を、仕入税額控除の要件とする。

1 適格請求書発行事業者登録制度

(1)適格請求書発行事業者の登録

「適格請求書発行事業者」とは、免税事業者以外の事業者であって、納税地を所轄する税務署長に申請書を提出し、適格請求書を交付することのできる事業者として登録を受けた事業者とする。
(注1)特定国外事業者(事務所、事業所等を国内に有しない国外事業者をいう。)が上記の登録を受ける場合にあっては、消費税に関する税務代理人があること等を要件に加える。
(注2)適格請求書発行事業者の登録については、平成 31 年4月1日からその 申請を受け付けることとする。

(中略)

8 免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置

(1)適格請求書等保存方式導入後3年間の経過措置

事業者が平成 33 年4月1日から平成 36 年3月 31 日までの間に国内において免税事業者等から行った課税仕入れについて一定の事項が記載された帳簿及び請求書等を保存している場合には、当該課税仕入れに係る支払対価の額に係る消費税相当額に 80%を乗じた額を仕入税額として控除する。
(注)上記の「一定の事項が記載された帳簿及び請求書等」とは、上記三2の 「適格請求書等保存方式が導入されるまでの間の措置」において仕入税額控除の要件を満たす帳簿及び請求書等をいい、帳簿にはこの経過措置の適用を受けたものである旨を、あわせて記載するものとする。

(2)(1)の措置後3年間の経過措置

事業者が平成 36 年4月1日から平成 39 年3月 31 日までの間に国内におい て免税事業者等から行った課税仕入れについて一定の事項が記載された帳簿及 び請求書等を保存している場合には、当該課税仕入れに係る支払対価の額に係 る消費税相当額に 50%を乗じた額を仕入税額として控除する。
(注)上記の「一定の事項が記載された帳簿及び請求書等」については、上記 (1)と同様とする。

(参考)

自民党ホームページ : 平成28年度税制改正大綱